妖精の日常
お父さんがいなくなって一年が過ぎた夜、小三のお姉ちゃんには妖精がみえるようになりました。そして幼稚園に通う弟くんには猫衣(ネコポンチョ)が送られてきました。お姉ちゃんは妖精たちとオーガたちを異界に帰す仕事を始めました。弟くんは猫のキリコと犬のブンカとカナブンたちと旅に出ました。
登場人物
エリー :妖精がみえるようになった小学三年生。
ユウリ :猫になった園児。
ナタデ・ココ :妖精、エリーの同級生。
パパ(男爵) :猫の国に行ってしまったエリーとユウリの父親。
ママ :ピアノの先生
キリコ :猫の国の役人。
ブンカ :ママの飼っていた犬。
アラン大佐 :パパに世話になったカナブン。
妖精
妖精王 :人間界にきてしまった妖精国の王様。悪党に狙われている。
ピクシー :妖精王の執事。
悪党
オーガ卿 :物を鬼にする妖精。妖精国の大臣。
オノ :鬼になった斧。
カタナ :鬼になった刀。
カマ :鬼になった鎌。
ガン :鬼になった銃。
ヤリ :鬼になった槍。
プロローグ
猫町公園の紫陽花トンネルを抜けるとその先に妖ノ国があります。トンネルを抜けて人の世に現れた妖精王は寺の軒先に住みつきました。
妖精王が人の世に現れた夜、小三のエリーは妖たちがみえるようになりました。それからエリーは妖精王を狙うオーガたちを妖ノ国に帰す仕事を始めました。
お父さんがいなくなって一年が過ぎた夜に、パパの親友のカナブンが現れ、行方不明になったパパは、現在猫の国で貴族をしているとことを教えてくれた。それからしばらくして、幼稚園に通うユウリに、パパから猫衣(ネコポンチョ)が送られてきました。猫衣を纏ったユウリは猫のキリコと犬のブンカとカナブンのアラン大佐と、パパに会う旅に出ました。
妖精になった日
あの夜からエリーは左目に違和感を覚えています。この一週間、左目の中に小さな欠片が入っている感じがして、とても嫌な気持ちが続いていました。運動をすると破片が目の中をゆっくりと回り、たまに破片の先が目の内側に当たるような感じがしていたのです。
エリーは一週間内緒にしていたのは、エリーのちょっと頑固な性格によるところもありましたが、仕事や家事で忙しいママに迷惑をかけたくないという優しい気持ちがそうさせていたのです。
ところが今日はいままで感じていた違和感がないので、これで安心して小学校にいけると思いました。エリーは念のため洗面所にいって鏡をみることにしました。目に異常はありませんでした。エリーが自分の部屋に戻ろうとしたときです。エリーの顔がすこし斜めになったとき、目の色が緑色にみえました。エリーは慌ててもう一度鏡を覗き込んでみましたが変わりはありません。そこですこし顔の角度を変えてみました。すると理由が分かりました。ある角度になると左目が緑色に光ったようにみえるのでした。
エリーは左目がよくみえるように指で瞼の上下を引っ張りって左目をよくみました。眼球の黒目が僅かに緑がかっていました。左目は強い光が射し込むと、角度によって緑色にみえたのです。
緑色の左目をみて、エリーはあの夜のことを思い出しました。塾からの帰り道に電線の上をハクビシンが通り過ぎたのに気付いて立ち止まり、電線を見上げたときです。夜空を流れ星が横切り、そのあとに手持ち花火から噴き出した火花のような光が夜空を一瞬緑色に染めたのです。エリーが茫然としていると、前方からきた自転車の光がエリーを照らしました。それでエリーは我にかえりました。エリーは急いで家に帰りました。
エリーはママについさっきのことを話しました。しかしママはあまり興味がないようで、「もう九時を過ぎてるんだから早く食事をしてお風呂に入りなさい」といわれてしまいました。
エリーがお風呂から上がって寝床に向かうと弟のユウリはすでに寝ていました。今日は本を読みながら寝るのをやめ、すぐに部屋の明かりを消しました。エリーはさっきのことを思い出しながら天井をしばらくみていました。するといつの間にかエリーは寝てしまいました。
ところがいつもなら朝までトイレにもいかずに寝ているのに、今夜はなぜか夜中に目が覚めました。寝つけなくなったエリーは空をみるためにベランダにいくことにしました。横ではユウリが寝返りを打って布団を剥いで寝ています。ユウリに気付かれないようにそっと布団をめくって立ち上がり、足音を立てないようにベランダの方に近づき、静に窓を開けてベランダに出ました。
夜空を見上げると、上空から緑色の人型の何かがすごいスピードで降りてきます。そしてエリーの前に着陸したのです。エリーが何もできずに立っていると、その人型の何者かが「これをお前に預ける、仕事が終わったら取りにくる」といってエリーを押し倒して、緑色に光る破片をエリーの左目に突き刺しました。エリーが叫んで飛び起きると、横にユウリが寝ていました。次の朝、「エリー早くしろ、もう時間だぞ」というユウリの声でエリーは目を覚ましました。
妖精王
「妖精王、妖怪どもにみつからないうちに早く国に戻りましょう」と年老いた執事のピクシーがいいますが、妖精王は「大丈夫だ、妖怪どもはわしらに悪さはせん。妖怪王とわたしは幼馴染だからな」といいました。「しかしですね、オーガどもは別ですぞ。オーガどもは妖ノ国の王を狙っております。既に、オーガ卿がオーガどもを人間界に放ったとのことです」とピクシーがいいます。「そうなの」と妖精王がひょうひょうと答えると、ピクシーは「そうなのではありません。オノ、カタナ、カマ、ガン、ヤリ、ナタがこちらに向かっているそうですぞ」と声を荒げていいました。
妖精の日常
ココがエリーのクラスに転校してきたのは夢をみたその日でした。ココは美しい少年でした。
ユウリはパパに会うために旅に出ることを決断しました。ユウリは旅に出る夜、ママとエリーとお風呂に入りました。そしてわがままをいってママに身体を洗ってもらいました。みんなが寝静まったころ、ユウリは押し入れの奥に隠しておいた猫衣を、音を経てないように引っ張り出し、素早く着ました。それからエリーの頬にキスをし、ママの胸に顔を埋め、お別れをしました。ユウリはベランダから外をみて、満月が緑色になったのを確認すると、猫町公園の紫陽花トンネルに向かいました。
紫陽花トンネルにはココがいました。ユウリはココにいいました。「ココ頼んだよ、これからココが僕になるんだからね」
「わかっているさ、ユウリも気を付けて旅をするんだぜ」
「エリーとママをよろしくね」そういうとユウリは輝きだしたトンネルに入っていきました。そのあとを追うようにキリコとブンカとアラン大佐もトンネルに入っていいました。
次の朝、エリーが目を覚ますと、目の前にココが寝ていた。エリーは思わず叫んだ。するとママが「ユウリを早く起こして」といいました。エリーは「どうしてココがうちにいるの」とココに訊ねました。するとココは「弟くんが旅に出たから僕が代わりにこの家に住むことになったんだよ」と平然といいました。
「ユウリが旅に出たってどういうことなの」
「パパを探すといってたよ」
エリーは何もいわなかった。するとママがきて、ココに早く起きなさいといいました。
ココが「おはよう」というと、ママは「今日は偉いわね、いつも何もいわないのに」と何事もなかったようにいいました。
「ママさんには僕がユウリにみえているんだ。エリーは妖精だから僕がユウリにはみえないだろうけどね。でもママさんには内緒だぜ」
「わかっているわ」とエリーがいうと、「それでは本題に入るとしよう、ユウリが帰ってくるまでの間、君が妖精王をオーガたちから護るんだ」というとココは微笑みました。
「どういうことなの」
「君は妖精になった。そしてユウリは旅に出た。そのギャップを僕たちは埋めなくてはならない。だから僕はユウリに化け、君はオーガを異世界に返すんだ」
「そんなことわたしにはできないわ」とエリーが強い口調でいいます。
「大丈夫さ、君は十分に強いんだから、オーガなんかすぐに異世界送りにできるよ」とココがいうと、エリーはココを睨みつけました。
キッチンから「エリー、ユウリ、早くしなさい」とママの怒る声が響いてきます。
二人は五分後には外にでていました。
こうしてエリーの日常が始まりました。
旅路
山の頂上に建てられた小さな祠の中から、トンネルを抜けたユウリたちが転がり出てきた。ユウリが「いてて」といいながら立ち上がり、キリコとブンカをみると、二匹は帽子を被り、ブーツを履き、マントをし、更には腰のベルトには剣を差していました。アラン大佐も、黒い髭をした、海賊のような姿の大人になっていました。
ユウリがどういうことなんだと思っていると、アラン大佐が「こんな田舎に出てきてしまったのか。108個あるゲートのうち、猫の国に一番遠いいゲートから出てしまうとは」と嘆きました。
すると冷静な声で「アラン大佐、嘆いても仕方ありません、大変な旅になるでしょうが、わたしたちは早く男爵の城にいかなければなりません」とキリコがいいました。
「そうですね、早くいきましょう、わたしたちはユウリを早く男爵のところに連れていかなければならないのですよ」とブンカがユウリの方をみて優しい声でいいました。
アラン大佐が大きな声で「では皆の衆出発だ」といいました。
こうしてユウリたちの冒険が始まりました。